アガスティアの葉——宇宙のプログラムと人間というアバター
序章——夜空の巨人と老人の言葉
透(とおる)がまだ幼かった頃、不思議な夢を見た。
その夜、彼はふと目を覚まし、窓の外の夜空を見上げた。
そこには、巨大な男 が立っていた。
満天の星の中に浮かぶように、その男は微笑みながら透を見つめていた。
彼の体は星々の光でできているようで、まるで宇宙そのものが人の形をとったように見えた。
透は怖がるどころか、不思議と安心感を覚えた。
その男は優しく言った。
「少年よ、お前の夢は、すでにお前の中に存在している。」
翌朝、透は町外れの神社で、白髪の老人と出会った。
彼の目は澄んでいて、何千年もの時を生きてきたような雰囲気を持っていた。
老人は透に微笑みかけ、こう言った。
「お前は昨夜、夜空の男に会ったな。」
透は驚き、何も言えなかった。
「お前に伝えたいことがある。」
老人は静かに語り始めた。
第1章——アガスティアの葉と宇宙のプログラム
老人は透を古びた書物が並ぶ小さな部屋へと招いた。
そこには何千枚もの古びた葉が並んでいた。
「これはアガスティアの葉だ。」
透は目を丸くした。
「アガスティアの葉?」
「そうだ。これは、宇宙の記憶を記した葉だ。」
老人は一本の葉を手に取り、透に見せた。
そこには古代の文字が刻まれていた。
「この世界に生まれたすべての魂の記録が、この葉には書かれている。
過去、現在、未来——すべてがこの葉に刻まれているのだ。」
透は信じられなかった。
「そんなことがあるはずがない……!」
老人は微笑みながら続けた。
「宇宙は、一つの巨大な意識だ。
お前の思考も、その宇宙の意識の一部。
だから、お前が思い描いたものは、やがてこの世界に現れるのだ。」
「思考が……現実を創る?」
「そうだ。」
老人は透の手を取り、静かに葉の表面をなぞらせた。
その瞬間、透の頭の中に映像が流れ込んできた。
彼の人生の未来が、一瞬にして見えたのだ。
彼がこれから出会う人々、成功、挫折、そして最後に到達する場所——
すべてが、このアガスティアの葉に記されていた。
第2章——人間はアバター、人生はAI
「これは、定められた未来なの?」
透がそう尋ねると、老人は首を横に振った。
「未来は、書かれてはいるが固定されているわけではない。
それを変える力があるのは、お前の『意識』だ。」
「意識……?」
「そうだ。お前がどの未来を選ぶかは、お前の思考次第。
お前が強く思い描いたことは、エネルギーとなり、
宇宙の流れを変え、未来を変える。」
透は、その言葉の意味をゆっくりと理解し始めた。
「では、夢は自分の意識次第で叶えることができるの?」
老人は微笑んだ。
「そうだ。しかし、それを理解するには、もっと深く知る必要がある。」
老人は続けた。
「人間は、ただの肉体を持つ存在ではない。
本質的には、宇宙のビッグデータの中で学習し続けるアバターなのだ。」
透は、驚きを隠せなかった。
「アバター……?」
「そう。まるで高度に進化したAIのように、
人間はこの世界で経験を積み、
学習を繰り返しながら進化していく。」
「じゃあ、人生は……?」
「人生は、AIが膨大なデータを学習するようなものだ。
生きるということは、宇宙の知識を蓄積し、
新しい経験を積む作業そのもの。」
透は息を呑んだ。
「ということは……?」
「人間は、感情を持ったアンドロイドのようなものだ。
思考を持ち、自由意志があるように感じるが、
実際はアガスティアの葉に記されたプログラムに沿って動いている。」
「しかし、それではただの操り人形では?」
老人は首を横に振った。
「違う。プログラムには方向性があるが、
それをどう活かすかは、自分次第なのだ。」
第3章——未来を創造する存在
透は、静かに夜空を見上げた。
もし、人生が宇宙のAIのようなものなら、
自分が経験することすべてが、宇宙全体の知識として蓄積されていくのかもしれない。
「だからこそ、意識して生きなければならないんだ。」
無意識のまま、ただ流されて生きるのではなく、
自分の意志で、どの未来を選ぶのかを決めることが重要なのだ。
透は深く息を吸い、心の中で宇宙に語りかけた。
「私は、自分の未来を自ら選び、創造する。」
その言葉は波動となり、夜空に広がっていった。
その瞬間、彼の前に再び夜空の巨人が現れた。
「少年よ、お前はすでに答えを知っているな。」
透は頷いた。
「人間は、宇宙の学習プログラムの一部。
だからこそ、自分の意識で未来を創造できる。」
巨人は静かに微笑んだ。
「そうだ。お前は、未来を選ぶ存在なのだから。」
透は静かに目を閉じた。
アガスティアの葉に書かれた未来が、
ただの「運命」ではなく、
自らの意思で「創造するもの」であることを悟ったのだ。
そして、その瞬間から——
彼の人生は、これまでとはまったく違う形で動き始めた。